残業しないで帰りたい!
親父に会いに行ってからしばらくたった日曜日、ウエディングドレスの試着があるというので式場にやって来た。
それにしても、ドレスの試着っていうのは時間がかかるんだなあ。
大きく伸びをしてソファーに深く腰を預ける。
男どもが待つためにあるソファースペースを見渡すと、ちらほら寝てしまっている奴もいる。
でも俺は寝ない。香奈ちゃんは新しいドレスを着る度に、嬉しそうに瞳を輝かせてその眩しい姿を見せに来るからたまらなく可愛くて、寝るなんてとてもじゃないけど考えられない。
試着、なんてものに香奈ちゃんがはしゃぐのは極めて珍しい。
普段は人に見せるとか見られるっていうことを嫌がるんだけど。
やっぱりウエディングドレスっていうものは、女の子にとっては特別なのかな?
ちなみに今日は香奈ちゃんのお友達、瑞穂さんも来ている。妊娠5ヶ月だという彼女は、最近やっとつわりが落ち着いたらしい。
だから俺が「大丈夫?」って心配すると「大丈夫ですからお構いなく!」と跳ね退けられた。
そもそも彼女は初めて会った時も「こんなオッサン、絶対にダメ!」とキャンキャン吠える番犬みたいに敵意丸出しだった。
オッサンで悪かったね。
瑞穂さんは香奈ちゃんのことが大好きなんだろう。君は俺に香奈ちゃんをとられたとでも思っているの?
でも、俺だって香奈ちゃんが好きなことに関しては負けないよ?
香奈ちゃんの親友と張り合うなんてバカみたいだけど、俺と瑞穂さんはどうやらそういう立ち位置のようだ。
俺がソファーに腰かけ、そんなことを考えながらボサーッと待っていたら、瑞穂さんが話しかけてきた。
「ねえ、オッサン」
「……オッサンって言わないでくんない」
「香奈の髪が長かった時の写真」
「は?」
「見たい?」
そりゃ、見たくないわけがないでしょうよ。