残業しないで帰りたい!
扇子を出してパタパタと扇ぎながらフゥーと息を出す瑞穂さん。
……夏の妊婦は大変そうだね?
瑞穂さんは扇子を勢いよく動かしながら、遠い目をした。
「私ね、香奈はもっと幸せになってもいいと思うんだ。あの子、鈍感だから自分でも気が付いてないけど、いつも当たり前みたいに自分は我慢して人に譲ってきたと思う。だからね、オッサンには香奈が好きなだけワガママを言えるように、たくさん甘やかしてほしいの」
「うん……、そうだね。わかった」
俺がうなずいた時、また別のドレスを着た香奈ちゃんが試着室から出てきた。
そのあまりの美しさに、目を奪われて息を止める。
何それ?すっごい綺麗……。
「香奈!それ、超可愛いよ!それにしなよ!」
先に言わないでよ。俺が言おうと思ったのに。
「俺も良いと思うよ。すごく似合ってる」
「うーん。でもこれ、さっきカタログで見て、高いねって言ってたドレスなの」
ああ。さっきみんなでカタログを見た時、すごくいいけど高いなあって香奈ちゃんが言ってたヤツだ。
でもすごく似合ってるよ?
「気に入ってるならいいんじゃないの?」
「ううん。高いからダメ。記念に着てみただけだからいいの」
「値段なんて気にしなくていいのに。せっかくなんだしさ」
すると香奈ちゃんは、ムムッと目を細めた。
「翔太くん!無駄遣いはダメだよ。翔太くんは時々無駄遣いをするからいけません」
「……えっ?」
あ、あれ?今、俺、怒られてんの?
でも着てみたってことは本当は着たいんじゃないの?
「この指輪だってすごく嬉しかったけど、でもこれ、ものすごく高かったんでしょ?この間優香さんが言ってたよ?この指輪、すごく高いって。私のことを思ってくれるのは嬉しいけど、少しは考えてお買い物しないと!」
……優香さん、余計なことを。