残業しないで帰りたい!
そしてドレスの裾を持ち上げて試着室へ戻ろうとした香奈ちゃんが、ゆっくり振り返った。
「翔太くん……」
「ん?」
「ありがとう」
「気にしなくていいよ。綺麗なドレスを着せてあげられるなんて、男の甲斐性ですから」
俺がそう言うと、香奈ちゃんはちょっと考えてから俺をじっと見た。
「今回はお言葉に甘えて贅沢しちゃうけど、でもこれから大きなお買い物する時はちゃんと私に相談すること!わかった?」
は?えっと、相談?
「あ……?はい……わかりました」
「うん!よろしいっ」
香奈ちゃんはニコニコと満足げに試着室へ戻って行った。
隣で瑞穂さんがニヤニヤしているのがわかる。
……あれ?
なんて言うのかな、この感じ。
これって、もしかして……。
もしかして、俺って尻に敷かれるタイプなの?
……。
思わずクスッと笑ってしまった。
人生って面白いなあ。
俺って尻に敷かれるタイプなんだ。
そして、いつも遠慮して大人しいと思っていた香奈ちゃんは、本当は尻に敷くタイプなんだ。
瑞穂さんが横でプククッと笑った。
「オッサン、いい感じじゃん!」
「いい感じ?」
「うん!いい感じで手綱を握られてますなっ」
「うーん、そうねえ」
「安心したよ!香奈のヤツ、ケチなことは言ってるけど、ちゃんと好きなように言いたいことを言えてると思う。……心配、なさそうだね」
「……うん。俺も安心した」
そう。
これでいいんだ。
いや、これがいいんだ。
香奈ちゃんが俺を怖がらずに言いたいことを言ってくれるなんて、これ以上の幸せがあるだろうか。
君の尻に敷かれるなんて、俺は最高に幸せな男だよ。俺は喜んで君の尻に敷かれよう。
そもそも香奈ちゃんは、しっかりした真面目な子だ。フラフラした俺の手綱を引くくらいが、きっとちょうどいいんだよ。
君には俺の後ろにかしこまる奥さんじゃなくて、俺の上に立つカミさんでいてほしいんだ。