残業しないで帰りたい!
切羽詰まる俺など気にする様子もなく、茶髪の若い看護師は鼻にかかった甲高い声で飄々と言った。
「お荷物は病室に置いてきていただいてー、こちらに戻ってきたら声をかけてくださーい」
なんだよ、その決まり文句みたいな言い方。ずいぶん軽い感じだな。
いいのか?そんなんで。
でも、何か問題があったってわけじゃなさそう。
病室番号を聞いて荷物を置いて戻ってくると、前室のような部屋に案内され、流れ作業のように手を洗わされて変な割烹着みたいな服を被せられた。
あ、あれ……?
これって、もしかして?
困惑する俺を見て看護師は怪訝な顔をした。
「一緒にお部屋に入る予定だったんですよね?」
「え?はい、そうです」
「それでは中へどーぞー!母子ともに健全ですよー」
母子ともに健全?無事に産まれたってこと?
なんか言い方が飄々としていてピンとこないんだよなあ。
扉を開けて中に入るとそこは明るい部屋で、耳慣れない新生児の絞り出すような細い泣き声が聞こえてきた。
「……翔太くん」
ハッとして見ると、ほんのり赤い頬をして額に汗をかいた香奈ちゃんが横になったままこちらを見ていた。思わず駆け寄る。
「香奈ちゃんっ!……大丈夫?」
「うん……大丈夫。……翔太くん、そんな不安な顔、しないで」
相当疲弊しているのか、香奈ちゃんの声はかなり小さかった。
そんな顔だなんて……俺、また不安が顔に出ちゃってた?
「思いのほか陣痛が早く来ちゃって……。ごめんね。待たせちゃったよね?」
「いいよ、そんなことはいいんだ。そんなことより香奈ちゃんが無事で良かった」
「うん……、それは、もちろん」
香奈ちゃんは弱々しく微笑んだ。
「子どもは?」
「今は体重を測ったり、洗ってもらったりしてるみたい」
「そっか」
何より君が無事で本当に良かった。君が生きている姿を見て、心からほっとした。