残業しないで帰りたい!
「なんかね、ホテルの最上階にあるレストラン予約してるんだって……」
は?ホテルのレストラン?
ズキンと胸が痛む。
それは……。
その男は勝負をかけてきてるよね?君はそれがわかってるんだろ?
その男はレストランだけじゃなくて、部屋だってとってるかもしれないよ?
……なんで君はそんなこと、俺に言うの?
俺には言わないでくれよ!
友達だからか?
なんかアドバイスでもほしい?
いくら友達だって聞きたくないことくらいあるんだよ!
「そいつは……本気なんじゃないのかな?」
「うーん、そうなのかなー」
「どうするの?」
「んー、……わかんない」
「わかんない、ね……」
また、わかんないかよっ!
……?
あれ?
ちょっとおかしいな。
わかんない、だなんて、いつも竹を割ったようにハッキリしている白石さんにしては、曖昧な反応……。
なんか違和感を感じる。
もしかして……、迷ってる?
それとも、その男はそんな君の新しい側面をも引き出してしまうような男なのか?
ギュッと胸を握りつぶされるような傷みを覚える。
……君はその男のことが好きなの?
その男に抱かれてもいいの?
その男の前で、君の瞳はその男をどう映しているの?
……ダメだ!
ズキズキとえぐられるような痛みが胸に響いて耐えられない。あまりの苦しさに顔が歪む。息もできない。
うつむいて腕時計に視線を落とした。
「もうすぐ休み時間終わりだね。仕事に戻ろらないと」
「……うん」
「じゃあ、俺行くから」
苦しい表情を見せたくなくて、急いで立ち上がると、くるっと彼女に背中を向けた。
そして、彼女を振り返ることもなく、早足でその場を去った。
だから、席を立った時、彼女がどんな顔をしていたのか、俺は知らない。