残業しないで帰りたい!

それなのに、また青山さんに無理なお願いすることになってしまった。
藤崎課長の耳に入ったら、また怒られるかもしれないな。

「いつも急でごめんね。悪いんだけど、千セット作ってほしいんだ。みんなでやってもらっていい?俺からも高野係長には言っておくから」

「わかりました」

青山さんは困った顔で、でもにっこり笑ってうなずいた。

それにしても……。

こんなとんでもないお願いをしたら、白石さんは「コラー!」とか言って、絶対に食ってかかってくるだろうな、なんて期待していたんだけど。

青山さんと俺の会話は聞こえているはずなのに、白石さんは背中を向けたまま、何も言ってこなかった。

なんだよ。
……元気、ないのか?

絡んでほしかったのに、残念だな……。
何かあったのかな?

心配だったけど急いでいたし、そのまま部屋を後にした。

そして、昼過ぎに見本市から大急ぎでサンプルを取りに戻ると、青山さんはちゃんと台車に段ボールを乗せて待っていてくれた。

えっと、白石さんは?

キョロキョロ探したけど、彼女の姿はどこにもない。俺があんまりキョロキョロしたから、青山さんは不思議そうな顔をした。

「どうかしましたか?」

「いや……、何でもないよ。こんな数、急ぎで仕上げてくれてホント、ありがとね」

「いえ」

青山さんに手を振って、台車を押してエレベーターホールに向かった。

白石さん、見当たらなかったな……。
朝も元気がなかったし。
どうしたのかな?

ポーンと音が鳴ってエレベーターの扉が開いたから、ガラガラと台車を押して乗り込んだ。

ガコンッ!!

「っ!」

扉が閉まる瞬間、勢いよく白石さんがズサーッと走り込んできた。

えっ?えっ?
なになに!?

いきなりのことに驚いて固まる俺の横に、白石さんはスッと当たり前のように並んだ。
< 32 / 259 >

この作品をシェア

pagetop