残業しないで帰りたい!

「……アイツとはもう会わない?」

どうしても気になって聞いてしまった。握る手に力が入る。
彼女はさっき「会わない」って言っていたのに、あえて確認したくなる俺は小心者だ。

「悪いことをしちゃったとは思うけど……。でも、もう会わない」

白石さんは俺をじっと見上げて、手をギュッと握ってきた。

「……迎えに来てほしかった」

俺を見つめる瞳に胸が震えた。

「だから迎えに来ただろ?」

疼く痛みに耐えながらそう答えた。

やっぱりそうだったんだね……。

良かった……。
間にあって本当に良かった!

「こんな強引な峰岸君、初めて見たよ」

「強引なのが好みなの?」

「そうじゃないけど。……峰岸君ならなんでもいい」

彼女の小さな声にまた震えた。
君がそんな風に思ってくれるなんて。

それは俺だってそうだよ?俺だって、どんな君でもいいんだ。

君のことばかり見てるって思ってたけど、俺はいったい君の何を見ていたんだろう。

君が俺を見ていたことにも気が付かないなんて、俺は正真正銘、大バカ野郎だ。

エレベーターが開いたから、そのまま二人で乗り込んだ。

「……遅いっ」

「え?」

「ずっと、待ってたんだから」

そう言って見上げた彼女の瞳には涙がたまっていた。

その潤んだ瞳に突き動かされて、思わず衝動的に彼女を力いっぱい抱き締めた。

初めて抱き締めた彼女は想像以上に小さくて、彼女の肩は思いのほか細くて、その愛おしさにますます胸がグッと痛んだ。

そんな胸の痛みを抑えたくて、もっと強く抱き締めた。

「……遅くなって、ごめん」

「うん」

「俺、ずっと前からこうしたかった」

「私も……こうしてほしかった。ずっと待ってたんだから」

「うん。……ごめん」

「本当にずっと待ってたんだよ?3年前から、ずっとずっと待ってたんだから」

「……えっ?」

3年前?
なにそれ?
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