残業しないで帰りたい!

「君は他の男と一緒にいた方が幸せになれる。それなのに……、君の幸せを望みたいのに、君を自分のものにしたいって気持ちを抑えられないんだ……」

苦しげにそう言った彼の横顔に、私はもう一度恋をした。

いつも厳しくて気の強い彼が見せた、弱々しい表情。

心を鷲掴みにされた。

いつも冷たく突っぱねられて、半分意地みたいになって彼のことを追いかけてきたけれど、そんな人に振り向いてもらえた時、追いかけていた時の恋とはまた別の、違う恋をしてしまうものなのかもしれない。

そして付き合い始めてから、彼が女を遠ざけていたのは、娘がいるということだけが理由ではないことを知った。

「君まで突然いなくなったら、と思うと怖いんだ」

彼は寂しそうにそう言った。

彼の前の奥さんは、離婚したのではなく、亡くなったらしい。

前の奥さんはもともと体が弱く、精神的にも弱くて、入退院を繰り返していたそうだ。

彼は奥さんの体のことを考えて、子どもは無理だと思っていたけれど、奥さんは子どもを欲しがった。

子どもができて奥さんはとても喜んだ。でも、香奈ちゃんを産んでから、奥さんはますます弱っていった。

退院して家にいる時は、かろうじて香奈ちゃんの幼稚園の送り迎えをしていたらしいけれど、気の弱い奥さんは、幼稚園の人間関係がうまくいかなくて、それがストレスになって沈み込んでしまうこともしばしばあったという。

 そして5年前、精神的にも弱っていた奥さんは、肺炎をこじらせて入院するとあっという間に弱って死んでしまったらしい。

マジですか?
か弱すぎる……。驚くほど儚い。

言っておくけど、私はそういう感じじゃない。
負けず嫌いだから、病気にだって負けないよ?私は全然そんな心配いらないよ!
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