残業しないで帰りたい!

私たちの先輩で、奥さんを誘惑して販売していた先輩が一人いた。もちろん、表立ってではなく裏でこっそりだったみたいだけど。

でもその後、誘惑された奥さんの旦那さんから会社を訴えるって言ってきたり、それはもう揉めて、ものすごく大変だった。
その先輩は会社を辞めて、その後どうしたのか知らない。

つまり色恋をネタに教材を売ってはいけない。

そりゃそうだ。
その原則はよくわかる。

でも、セクハラは別。当時はセクハラなんて言葉の認知度も低かった。

私は個人客の営業ではなく、法人客の営業だった。

法人相手だと連日の接待で、連れて行かれたらお酌は当然だし、ついでに手を触られたり肩を抱かれたりなんて日常茶飯事だった。

当然最初は嫌だったけど、だんだん慣れて図太くなって、尻を触られるくらいのことは当たり前になってしまった。

「愛ちゃんは美人でお仕事ができるから、男が放っておかないだろう?」

オジサンたちにそんなことを言われて、ちやほやされるのも悪い気はしなかった。

私は全然純情じゃない。
さすがに体を売ることはないけれど、ギリギリのところまで女を武器に使って売り上げが出るなら、そんなの全然構わない。

オッサンたちに触られるくらい、別にどうってことなかった。

でも、藤崎くんは男だし、そんなことは当然していないのに、なんであんなに売り上げが出るのか不思議だった。

藤崎くんにそのコツを聞いても「俺がしつこいからじゃないのかなあ」なんて言って、のらりくらりと教えてくれないし。

なによ、ケチッ!教えてくれたっていいじゃない!ムカつくヤツ!

どうにかしてその秘密を知りたい。近付いたらわかるだろうか、なんて……。

本当は藤崎くんに惹かれている自分に気が付いていた。

でもそれを素直に言えなくて、私は藤崎くんにおかしな提案をしてしまった。
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