残業しないで帰りたい!

でも、私はわからないフリをした。自分自身に対して。

だって、もう後戻りできないのに、わかってしまったら後悔しか残らない。

大丈夫。
恋人であることに変わりはないもん。普通の恋人が進むステップを普通に進んだだけだもん。

彼の体は私のもの。

こうやって一緒にいたら、いつの間にか私のこと、好きになってくれるかもしれない。
少しずつ近づけるかもしれない。

でも、淡い期待はただの希望的観測で、そんな関係が長続きするわけもなく、じわりじわりと破綻の時は近づいていた。

さすがに私から抱いてとは言えなかったけど、私が「家に行きたい」と言うと彼は私を連れて帰って、私を抱いた。

普段一緒にいても、抱かれていても、彼が私を好きなのかどうか全然わからなかった。

「私のこと好き?」なんて聞いて、また「好きだよ」なんて大嘘つかれても虚しいだけだし。

ただ、体が離れるとすぐに背中を向けて煙草を吸われるのはさすがに寂しすぎて耐えきれず、「すぐに離れないでほしい」と言うと、そーなの?って顔をして、それからは離れずそばにいてくれるようになった。

なーんだ!
もっと早く言えば良かった。

そっか。

コイツは言えば何でも言うことを聞いてくれるんだ。

私の願いを聞いて叶えてくれる王子様。

……でもさ。

それってなんか、受け身過ぎない?
超受け身!

アンタには自分のやりたいこととかないわけ?
私のこと、抱きたいと思って抱いてるわけ?
そうでもなくても抱けるわけ?

コイツの思考がサッパリわからない。
男ってそんなものなの?
好きじゃなくても抱けるの?

彼との距離をもっと縮めたくて、言えば何でも願いを叶えてくれる王子様に私はまた一つお願い事をしてみた。

「ねえ、名前で呼んでよ」

「……」

ん?いいよって言わない。
なんでよ?

たかだか名前で呼ぶだけじゃない!
それとも、まさか!照れてるとか?
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