残業しないで帰りたい!
それってちょっと脈ありだよね?
付き合ってる男に脈ありも何もないんだけど。
でも、見上げた藤崎くんの表情はそういう感じではなかった。
ちょっと考えてるみたいな……。
「ん?」
まさかとは思うけど……。
「まあ……そのうち、ね」
「……アンタ……まさか、私の名前わかんないなんて言わないよね」
「そんなことは……」
藤崎くんはバツが悪そうに目をそらした。
「今、名前で呼んで!」
「……ごめん」
「っ!」
はあっ!?
信じらんないっ!
3か月も付き合ってんのに名前を知らない!?
なんなのそれ!
猛烈なショックでカアッと頭に血が昇った。
女心とか、プライドとか、自分の持ち合わせていた常識の概念とか、いろんなものが傷ついた気がした。
アンタにとって私ってその程度なの?アンタは名前も知らない女を抱いてたのかよっ!
バカなんじゃないの?
ホント、ムカつくっ!
ムカつくなんてもんじゃない!
この怒り、どうしてくれよう!
こんなの、ありえないっ!
私はその後まもなく藤崎くんに別れを告げた。
こんな、付き合ってる女の名前にすら興味のない男と一緒にいても未来はない。こんな男に固執しても、バカを見るのは自分だ。
どうして夢中になっていたのか思い出せないくらい、一気に私の恋心は冷めてしまった。
言われるがままの超受け身男。
抱いてる女にすら興味を持てない男。
コイツはきっと、人を好きになることなんてできない。
コイツは一生、恋なんてできない!
「別れましょ?藤崎くん、私が思ってたのと全然違う。もっと積極的でグイグイ引っ張ってくれる人なのかと思ってた」
「そう」
一応最後に聞いてみた。
「……私のこと、少しは好きになれた?」
「どうかな」
藤崎くんは困った顔をした。
いいよ!別にっ!
むしろ「好きだった」なんて変な嘘をつかれるよりはマシ!
私は怒ったように「じゃっ!さよなら!」と言って踵を返し、私たちの恋人関係は終わった。