残業しないで帰りたい!

それからしばらくして、私たちは結婚して、私と彼と香奈ちゃん、三人の生活が始まった。

彼はすごく優しくて、相変わらず香奈ちゃんは遠慮がちで。それでも私にとってはすごく幸せな新婚生活だった。

子どもも欲しいと思っていた。
彼は香奈ちゃんのことを気にしていたけれど、香奈ちゃんは空気を読んで「友達から兄弟がいると楽しいって聞いたよ」なんて言って、私の後押しをしてくれた。

そんな気遣いをする香奈ちゃんに私はやっぱり違和感を感じて、なんか気持ち悪い子なんだよなって思っていた。

そして2か月が過ぎた頃。

事件が起きた。

彼が帰って来て夕食を食べ始めた時、香奈ちゃんが戸惑いながら、言いにくそうにポツポツと話し始めた。

帰ってからなんとなく元気がなかったから、気にはなってたんだけど。

「あ、あのね……。えっと、今日ね」

「どうした?香奈」

相変わらず、娘に対する彼の視線は優しい。

「えっと、……今日、変な人に会って、ね」

「変な人?何だそれっ!」

彼が少し声を荒げたから、香奈ちゃんはちょっと萎縮した。

「変な人に、……服を、まくられて、ね」

私は、この子何言ってんの?と思って目を細めた。

彼は香奈ちゃんの言葉を聞いて、勢いよく身を乗り出した。

「なんだよ!男か?他にも何かされたのか?」

「えっと、男の人で、えっと、首を絞められて……、それだけ、なんだけど」

「その男はどうしたんだ?」

「……わかんない」

彼はとても怒っていた。

「香奈、それは学校の帰りか?」

「うん」

「通学経路はどうなってるんだっ!すぐに学校に連絡しよう!警察にも言わないとな。絶対にそいつを捕まえてやる!」

彼は立ち上がるとすぐ学校に電話をかけて、通学路の安全確保についてかなり強い言い方をしていた。

彼の背中をじっと見つめた。

は?
そいつを捕まえる?
絶対に捕まんないよ。

だって、この話ウソでしょ?

私はそう思った。
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