残業しないで帰りたい!
香奈ちゃん、お父さんの気を引きたくて嘘ついたんでしょ?
やっぱり女の子なんだよね?お父さんのこと、私に盗られたと思って、ホントはずっとヤキモチ妬いてたんでしょ?
まさか、こんな大それた嘘をつくとは思わなかったけど。
やっぱり今まで猫被ってたんだよね?
あんなに気遣いができるなんておかしいと思ってたんだ。気持ち悪いもん。
あーあ、これだから女同士って嫌だよ。
でも、攻撃してきたからには私もやり返させてもらうから!
私は香奈ちゃんの耳元でこっそり囁いた。
「本当は香奈ちゃんが誘ったんじゃないの?子どものくせに女を意識しちゃってさ」
その言葉を聞いて、香奈ちゃんは目を大きく開いて、凍りついたように無表情になった。
あれ……?
なにその顔。
すごいショック受けた顔。
んー……?
……しまったな。
まずいな。
私、やっちゃったかもしれないな。
今、私、この子とのこと、ものすごく傷付けたかもしれない。
今の話って本当なの?
だとしたら、……傷付いたよね?
あーあ、しまった。
でも、素直にごめんねなんて言えない。
だって、嘘かもしれないし。
だから、私は素知らぬ顔をした。
それなのに。
その後、何人も同じような被害に遭う女の子が出て来て、本当に犯人が捕まった。
本当だったんだ……。嘘じゃなかったんだ。
香奈ちゃん、お父さんの気を引きたいって考えてたんじゃなかったの?
私の勝手な思い込み?
バカだ。
私ってホント、バカだ。
ごめん……。
香奈ちゃん、ごめんね。
心の中でそうつぶやいたけど、素直になれなくて、意固地になって言葉にできなかった。
それに、あんなに長くてきれいな髪を何の躊躇もなくバッサリ切って、一切スカートを履かなくなった香奈ちゃんを見たら、ますます言えなくなってしまった。
私はあの子を傷付けた。
深く傷付けてしまった。
その罪の意識は私の心にずっしりと重い手錠をかけた。
その後もずっと、その手錠が外れることはなかった。