残業しないで帰りたい!
それからしばらくして彼に癌が見つかった。
彼の胃癌は、見つかった時にはもう既に末期の状態にまで進行していて、転移も見つかった。
私はどうしたらいいのか、サッパリわからなかった。
こんなことってある?
こんな運命ってある?
この人、もう死んじゃうの?
私の大好きな大好きな人なのに。それなのに、死んじゃうの?
君が突然いなくなったらと思うと怖いんだ、なんて言ってたくせに、あなたは自分が先にいなくなろうとしてる。
彼は驚くほどあっという間に弱っていった。
俊夫さんも負けず嫌いなのに!病気になんか負けないでよ!
でも、それだけじゃどうにもならないことってあるんだ。
彼だって、あの若さできっと怖っただろうし、悔しかっただろう。
それでも彼は、私や香奈ちゃんのことをすごく心配していた。
「君にこんなに辛い思いをさせるなんて、本当にごめん。わかってたら一緒にならなかったのに……、本当にごめん」
「やだよ、そんなこと言わないでよ。好きで一緒になったんだから!俊夫さん、私と一緒にいて幸せじゃなかったの?」
「俺は本当に幸せだよ。でも……、こんなに君を愛しているのに、……俺は君を幸せにできなかった」
「私、幸せだよ。すごく幸せだよ。ずっと幸せだよ」
「優香、香奈のこと、頼む。君にこんな重荷を背負わせることになるなんて、本当にごめん。君を愛してるのに、こんなこと……。本当にごめん」
「いいよ、わかってる」
「……頼む。香奈は俺の娘なんだ。……俺の、たった一人の娘なんだよ」
一生懸命私の手を握って訴える彼を見たら悲しくて辛くて、香奈ちゃんのことを羨ましいと思った。
でも、彼は赤の他人の私も愛してくれた。
血が繋がって愛されるより、繋がってなくて愛される方が上だもん。
こんな時まで私は負けず嫌いだった。