残業しないで帰りたい!
哲也は大きくため息をつくと、グッと握っていた拳を開いて、腕をダランと下げた。
哲也?
……もう、嫌になっちゃった?
ああ……、もうダメなのかな。
ヤダよ、離れないでほしい……。
ワガママだってわかってるけど、あなたのそばにいたい。
私はあなたが大好き。大好きなの……。
それなのに。
私が憎しみに囚われてるから。
私の心が醜いから、いけないんだ。
私は哲也のことが大好きなのに、こんな風に傷付けて……。あなたのことを好きだなんて言う資格、ないよね?
……本当に、ごめんね。
哲也はうつむいたまま、つぶやくように小さな声を出した。
少し離れているからよく聞こえない。
「中村さん」
「?」
……哲也?
そんな呼び方、もう私たちは他人だって言いたいの?
「うちの部署に派遣されてきたあなたは少し緊張していて、でも一生懸命で、その様子がとても可愛らしかった」
「……?」
哲也は顔を上げて私をまっすぐ見つめた。
「面倒な仕事を頼まれても嫌な顔一つしないで、社員に嫌味を言われても困ったように微笑むだけで、あなたはいつもじっと我慢していた」
だって派遣だからね。そういうもんだよ?
哲也、何が言いたいの?
哲也は少し大きな声を出した。
「そんなあなたが気になって、俺はいつしかあなたを目で追うようになっていた」
えっ?えっ?
……本当にどうしたの?
「あなたが笑うと俺も笑顔になって、あなたが悲しそうにしていると気が気じゃなくて、声をかけたくなった」
哲也の大きめの声に通りかかった人たちが振り返ってざわざわし始めた。