残業しないで帰りたい!

こんな子が入ってくるなんて知らなかった。

人事課長のくせにちゃんと把握してない自分がいけないんだけど、今年横浜支社に配属される新入社員は4人いる、ということくらいしか憶えてなかった。

さすがに、興味なさすぎだな……。

採用とか配属については、前に本社から資料が回ってきてた気がするけど、俺、見もしないでテキトーに上に回しちゃったからな。

正社員の採用は本社で一括してやってるから、全く関心がなかった。

俺、いい加減だなあ。人事課長失格。
また大塚に怒られちゃうよ。

それに……。
こんなんじゃ青山さんにも顔向けできない。

これからはもっとちゃんとしよう。
少しは真面目に仕事しよう……。

入社式はまだ始まらず、会場はざわざわと騒がしかった。

騒がしい会場の中で、青山さんも隣の席の女の子と笑顔で何かを話している。
何を話してるんだろう。

すっかり存在を忘れていた新田に軽く手をあげて別れると、さりげなく青山さんのすぐ斜め後ろの管理職席に座った。

耳を澄ますと、青山さんは隣の子と「晴れて良かったね」なんて他愛もない話をしていた。

こういう声なんだ。
何て言うか、心地いい声。

前方でマイクの入る音がして、会場が一瞬で静かになった。

青山さんに隣の子が小声でこそっと囁いた。

「緊張するね」

「そうだねえ、緊張しちゃうなあ」

青山さんのその全く緊張感のない「緊張しちゃうなあ」って言葉を聞いた時、ゾワッと鳥肌が立った。

この感覚、なんだろう。

その言葉は俺の言葉に似ている。

おっとりしているというか、のんびりしているというか。

俺と同じ空気感……。
この人、俺と同じ空気をまとっている。
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