残業しないで帰りたい!

三つ子の魂百まで、なんて言うけれど、幼い頃から俺はのんびりした性格だった。

性格は母親に似たんだと思う。反対に、親父はせっかちで短気だった。

子どもの頃、親父はのんびりした俺にイライラして「こんなのろまは俺の子じゃない」と罵ることがあった。

親父からバカにされるのは嫌だった。自分がバカにされているのに、母親をバカにされているような気持ちになったから。

俺のせいで母親が辛い目に遭う。
だから、のんびりした自分に後ろめたさを感じた。のんびりするのはいけないんだと思った。

俺にとってのんびりした性格はコンプレックスだったんだと思う。

でも……。

この人は俺と同じ空気感を持ってる。

この人と一緒にいたら、何かを隠す必要なんかなくて、素の自分でいられるんじゃないだろうか。

思いっきりのんびりできるんじゃないだろうか。

この人のそばにいたい。

この人と一緒にいたい……。

そう思った段階で、ふと冷静になった。

なんだそれ?
俺、どうした?

……ちょっと俺、おかしくない?

女と一緒にいたいと思うなんて。
女を可愛いと思うなんて。
触りたいと思うなんて。

そんなこと、今まで一度も思ったことなかったのに。

……俺、どうかしてる。

もう一度彼女に目を向けたら、胸の奥をキュッと握られるような痛みが走って、思わず息を止めて目を細めた。

……?
なに、これ……。

まずいな。

すごくドキドキする……。
息苦しい。

俺……、彼女に惹かれてる?

まさか……。
一目惚れ、したの?

俺が?
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