残業しないで帰りたい!

俺が見た目で判断したっていうの?

でも、見た目だけじゃない。
あの言葉にやられたんだ。

いや、あの言葉が強烈だったんだ。

なんか、もうダメ……。
胸が詰まって耐えられない。

たまらずそっと席を立って会場の外を出た。
バタンと扉を閉めると、挨拶をしていた誰かのマイク越しの声も消えて、急に静かになった。

誰もいない廊下の壁にドサッと寄りかかる。

まだ激しい動悸が止まらない。
なんだろう、この息があがるような感じ。

息苦しさから解放されたくて、何度も大きく息を吸ったけど、締め付けられるように胸が痛んで、思わず顔をしかめてワイシャツの上から手で押さえた。

なんだよ……。
なんなんだよ、これ。

俺……彼女に惹かれてるの?

俺、彼女に惚れたの?

でも、まだ会って数分だよ?
喋ったこともないんだよ?

そんなの、あり得ないでしょ。

でも、彼女の茶色い瞳を思い出しただけで、またギュウッと胸が痛くなって、顔を歪めてもう一度自分の胸元を強く押さえた。

これ、どういうこと?
俺、どうしちゃったの?

彼女のこと、……好きになったの?

人を好きになるって、こういう感覚?

いやいや、違う!
違うんだよ!

一回落ち着こう?

だって、一目惚れなんてありえない。

見た目で人を好きになることに、価値なんてないんだ。

だから、一回落ち着こう!

そうだ、煙草!

……煙草吸って、頭冷やそう。

フラフラとした足取りで誰もいない喫煙室に入り、煙草とライターを胸ポケットから取り出した。

カチッ、カチッ……。

手が震えて火がつかない。

……何これ。
もー、どうなってんのよ、俺。
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