リナリアの王女
 「じゃあ俺は執務室に行くから。エリーゼは好きなように過ごしてくれて構わないからな」
私の頭を軽く撫でて執務室へと向かって行ったクラウド。
とりあえず私も与えられた自分の部屋に入ろう。
クラウドはサラちゃんと一緒なら好きにお城の中を歩いて良いって言ってくれた。
これからここで過ごしていくのならば早くに城内の事を把握しておくに越したことはないのだが、サラちゃんにも仕事があるだろう。
私の勝手に付き合わせてしまうのは申し訳ない。


「どうしようか・・・」


私一人には広すぎる部屋の中に今しがた呟いた独り言は消えていった。
昨日は部屋の中からしか外を見ていない事に気づき、バルコニーに出てみる事にした。


そこに広がる景色は昨日と同じように綺麗なものだった・・・。
ふわりふわりと漂っているシャボン玉のような泡に手伸ばしてみた。
それに触れるとやはりシャボン玉のように割れてなくなってしまった。
しかし、あのシャボン玉独特のにおいではなく、花の香りのようなものが辺りに広がった。



「本当に不思議・・・これは私がいた世界では見られない光景なのよね・・・」




長年過ごしてきたはずの自分の世界の事が朧げになっていく。
それはここに来た時よりも着実に薄れていっている。
そのうち私は異世界から来たという事自体を忘れてしまうのだろうか・・・?
しかしこのまま一生をここで過ごすのならばその方が良いのかもしれない。
元いた世界の事を考えて悲しむよりもいっそ全てを忘れてしまった方が・・・。




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