イジワル婚約者と花嫁契約
だけど答えたすぐあとに「しまった」と咄嗟に口元を両手で覆う。

なにを正直に答えてしまったのだろうか。
だって田中さんは耳にタコが出来てしまうほど、お兄ちゃんから健太郎さんのことを聞いているはず。
なのにそんな彼から電話があったと素直に伝えるなんてアホすぎる。

見事に意志疎通していたようで、珍しく田中さんは「灯里さんは正直すぎてある意味バカですね」なんて言われてしまった。
だけどその表情はやっぱり無表情じゃなくて、さっきと同じような“全く”と言いたそうで……。
また自然と視線は釘づけになってしまう。

「そんな素直なあなたに免じて代わりに代表に怒られておきますので、どうぞ行ってください」

「え……行ってください、とは?」

意味が分からず聞き返してしまうと、不愉快そうに顔をしかめた。

「ですからどうぞ会いに行ってくださいと言っているんです。代表が戻ってきてしまったら、今日はもう会えなくなってしまいますよ?」

淡々とした口調で書類に目を通しながら話す田中さんに、空いた口が塞がらない。
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