イジワル婚約者と花嫁契約
「え……でもあの本当にいいんですか?」

だって田中さんはお兄ちゃんの秘書でしょ?それにここで私を行かせてしまっては、田中さんに迷惑がかかることくらい充分理解している。
きっとお兄ちゃん、ものすごく怒るだろうから。

「ですからさっきからいいと言っているでしょう?早くしないと代表が戻ってきてしまいますよ」

「田中さん……」

ずっとこの人のこと苦手で、一緒にいると居心地が悪くて仕方なかったけれど、本当は私が思っているような人ではないのかもしれない。
以前もそうだった。田中さんは私の気持ちを汲んでくれた。

「聞こえませんでしたか?」

動こうとしない私に痺れを切らしたような声に、慌てて立ち上がった。

「すっ、すみません!ではお言葉に甘えてしまいます!」

ここで「気遣い無用です!」と言おうものなら、ますます田中さんを怒らせてしまいそうだ。
素直に好意に甘えることにし、慌てて書類をまとめ田中さんに差し出した。

「中途半端で申し訳ないのですが……」

「構いませんよ、これくらいすぐに終わりますから」

本人は全く悪意はないと見て取れるものの、言葉が棘となって胸に突き刺さる。

でも以前ほど嫌な気持ちにならないのは、田中さんという人がどんな人なのか少しだけだけど、分かってきたからかもしれない。
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