イジワル婚約者と花嫁契約
溢れ出た感情の赴くまま彼の背中に手を回し、自分からギュッと抱き着いた。

「灯里……」

頭上から降ってきた吐息交じりの声はどこか弾んでいて、嬉しそうに聞こえてきて。
それがまた私の気持ちをより一層煽った。

もっともっと健太郎さんのぬくもりを感じていたいって――。

お互いの名前を呼んだだけで、それ以上なにも話すことなくしばらくの間抱き合っていると、急にハッとしたように健太郎さんは私の身体を勢いよく引き離した。

「悪い!一時間しかないんだよな!」

「あ……はい」

その言葉に一気に現実に引きもどされてしまう。

本当はもっとあのままでいたかった。
さっきまであんなにお兄ちゃんに感謝していたというのに、時間の縛りを言いつけたお兄ちゃんが少しだけ恨めしく思えてしまった。

「灯里。……本当に悪かった」

「え……ちょっと健太郎さん!?」

急に頭を深々と下げ出した健太郎さんに、どうしたらいいのか分からなくなる。

「そんな謝らないで下さい!……むしろ謝るのは私の方です。……健太郎さんとの大切な思い出を忘れてしまっていたんですから」
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