イジワル婚約者と花嫁契約
目の前に大きな穴があったら、健太郎さんに見えないようすっぽり入り込みたいくらいだ。

恥ずかしくてひたすら下を向いていると、健太郎さんの大きな手が私の頭に触れた。

「悪い悪い、意地悪し過ぎたな」

ポンポンと撫でる大きな手。
ゆっくりと顔を上げると目が合い、健太郎さんは「ごめんな」と囁いた。

「当時まだ九歳だったのに、灯里と過ごした短い日々のこと今でも鮮明に覚えているんだ。俺にとって灯里は初恋だった。……だけど皮肉なことにそれに気づいたのは、灯里の両親が亡くなってからだった」

私の頭を撫でていたゆっくりと離れていく。

いよいよだ。……私が聞きたかった話は。
お兄ちゃんから見せてもらった報告書を見て、健太郎さんに聞きたいって思っていた。
その話がいよいよ聞けるかと思うと、妙に緊張してきてしまう。
それでも健太郎さんの言葉全てを聞き漏らさないように、そっと耳を傾けた。

「灯里にとって思い出したくないことかもしれない。……けど最後まで聞いてほしい」

向けられた瞳は強く、そして不安げに揺れていた。
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