イジワル婚約者と花嫁契約
すると田中はバックミラー越しに俺の様子を窺いながら話し出した。

「よく朝代表をお迎えに伺った際、灯里さんと会うんです。そのたびに灯里さんは「今日も兄をよろしくお願いします」と言って下さるんですよ。……それはきっと代表を想ってのことなんでしょう」

「そう、だったのか」

灯里、田中にいつもそんな言葉を――……。

「いつか代表のお目に掛かるお方が現れるといいですね。私も代表に感化されてか、灯里さんには幸せになっていただきたいので、そんな方が現れましたら全力で応援させていただきます」

「そんなのまだまだ先の話だ!」

口ではそう言うものの、田中が灯里のことを大切に思ってくれていることが、妙に嬉しくて仕方なかった。
それはなんでもお見通しの田中には伝わってしまっているようで、必死に笑いを堪えながら「そうですね」なんて言っている。

だけど本当、そんな奴が現れるのはまだまだ先だ。
父さんだって母さんだって俺と同じように、灯里のことを大切に思っているはず。
なら簡単に下手気な男に灯里を嫁に出すわけがない。
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