イジワル婚約者と花嫁契約
ひとりハラハラしてしまう。

「光栄ですが、気になる患者がいますのですぐに戻らなくてはいけないのです」

「あら、そうなの」

ガッカリするお母さんと、ホッとする私。

「今度は是非ご一緒させて下さい。楽しみにしております」

抜け目のなさに脱帽してしまう。
お母さんってばすっかり騙されちゃっているし。

「灯里さん、僕のアドレス変わっていませんので灯里さんの番号とアドレス、ご家族で食事後でもいいので送っていただけませんか?」

さっきは命令形だったくせに、お母さんがいるだけで敬語になっちゃうなんて。
ここまで清々しいともう呆れることさえできなくなる。

「……分かりました」

言葉に棘を生やしたというのに、佐々木さんは嬉しそうに微笑んだ。
その笑顔に不覚にもドキッとさせられてしまった自分が憎い。

「ではお忙しい時間に失礼しました。……灯里さん、連絡楽しみに待っていますね」

母とは違い、ひたすら苦笑いで手を振る私。
それでも彼はスマイルを貫いたまま去っていった。

「本当に素敵な方ね、佐々木さんは」

佐々木さんが運転する車が見えなくなると、お母さんは溜息交じりに呟いた。
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