形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】
「っ、なんで“牙”を!」
閉じられた物は無理矢理に開ける。
トトが苦しそうにもがいたところで、リヒルトの手は離れたが、見てしまった。
「分かっているのかっ。君の牙はもう生え変わることはない。次はないって、最初会った時に話したというのに……!」
吸血鬼としての証を自らの手で抜いた彼女を責める。
リヒルトが声を出せば、謝り続けて来た彼女であったが、今は俯いたままリヒルトを見ようともしない。
反抗の表れであるとは、手に取るように分かった。
「そんなに、僕の血が嫌だと言うのか!」
半ば、自身の血を愛と称して与えていたのだ。それが拒絶されたとあっては、リヒルトも声を上げる。
何度となく同じ言葉を繰り返したのは、トトが何も答えないから。
沈黙ではなく、啜り泣きが口から零れるのみ。
「っ、どうしてだ……」
思うように行かない。最善をしたつもりなのに、彼女は喜ばない。愛を与えているはずなのに、返されない。
いったい、どんな公式が当てはまるというのか。
「君が幸せになる事実以外は、ぜんぶ間違いなのに」
前髪を掴み、たくしあげ、頭を垂れる。
歯噛みをし、彼女を喜ばせることが出来ない自身に絶望すらもした。
「君が好きなだけなのに。それ自体が、君を泣かせることになるのか」
涙が答え。
そう気付くリヒルトは、落ちた彼女の歯と、腐った己の薬指を見る。
打ちひしがれる矢先だったが、ここで崩れてしまえば、それこそトトを泣かせたままになると、リヒルトは思考を切り替えた。
切り替えるしか、なかった。