形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】
「僕では、君を幸せに出来ない。ーーだったら」
どんな手を使ってでも、彼女を愛することを止めない男は、狂気に走る。
「ひっ」
リヒルトに押し倒され、小さく悲鳴を漏らしたトト。じたばたするほどの余力すらも残っていない身は、馬乗りになられただけで、容易に体の自由を奪われた。
「“牙なし”になろうとも、今度からは直接飲ませてあげよう」
唇を噛んで血を流す彼は口付けを。
唾液と共に送られた液体は、吐き出すことも叶わず、トトの喉を通る。
「ぁ、や、あ……」
窒息もままならない、立て続けのキス。全て、生ぬるい血の味がした。
「直接の方が美味しいだろう?僕でさえ美味しいと思うんだ。君の唾液が混ざれば、甘くもさえ思える」
単なる錯覚にせよ、止められはしない行為であった。
胸を上下させ息するトトの頭を撫で、耳元で囁く。
「トトちゃん、覚えている?君が僕のもとに来てくれた時、なんて言ったのかを」
息を吹きかけられながらだったため、トトにそれを考える余裕はなかった。
思考が途切れそうになる中、時折ある、リヒルトの声で引き戻される。
「『薬の精製方法を、教えなさい』。今なら教えてあげるよ。何百年も続いたカウヘンヘルム家の歴史を」
そう言って、彼は小瓶に入った赤い気体を、彼女の前にちらつかせる。
「吸血鬼の牙から出来ているのは君も承知の通りだけど、牙から分泌されるこの快楽の成分は“人間の血と混じって、初めて効果が出る”」
捕食する獲物が噛まれる痛みで暴れ、食事の阻害となるリスクを消す物であれば、当然のことながら人間の血と交わられなければならない。平常時でもこの成分に効果があるようならば、吸血鬼は立って歩くことも出来ないだろう。
「他にも、快楽効果をより強くするため、こちらの世界にある既存の薬も調合しているけど、メインはあくまでも吸血鬼の牙とーー」
切った唇の血を拭う。人差し指の一滴を、リヒルトは彼女の口に落とす。
「カウヘンヘルム家の血だ」
ぴちゃりと跳ねた一滴は、口の中まで入らず、よだれのようにトトの頬を汚した。