形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】
「愛されたかったんだね、君も」
どんな手を使ってでもーー
それを形にした男は、魔の薬をトトの鼻に通した。
空気と共に体内に入り込む気体。
全てを把握したトトだが、既に遅い。
自身の体内に、赤い物が菌のように蔓延するイメージが湧いた。
「ぁ、っ、くぅ」
横たわり、畳むように小さくなる体。
秒針が進むごとに、効果を感じるほどの即効性。
まばたきが出来ない瞳は見開いたまま、リヒルトに助けを乞うように向けられている。
「……」
眺めるリヒルトは、手を出さずに、乱れていく彼女を目に焼き付けるのみ。
「ぜんぶ、間違っているなら。少しでも、君が良くなる最善をしよう。これは、世間一般で言う“幸せの一つ”だよ」
幸せとは何か。
無論ながら、それは喜び。
苦痛がないさまを表す感情が一つを、トトは今、“空気に触れただけでも感じてしまう”。
虫のような息をしたかと思えば、獣のように荒く息継ぎし、唾液で床を濡らす。
「や、やだ、ぁ、っ!」
一抹の理性が、このふしだらな格好を受け入れないが、痙攣する体を押さえるため抱いた己の手は、既に慰める指使いになっている。
悲鳴にも近しい声が上がる。
その様を見て、リヒルトは、“笑った”。
「早いね。もう、こんなにして」
足首の有刺鉄線を切り、広げる。
いつもなら、恥じらうトトがすぐさま足を閉じる行為も、今ではリヒルトのなすがまま。面白いほどに濡れる部位に息を吹きかける。
また悲鳴。腰から跳ね、背がのけぞるほど光景を見ることが出来なかったのは。
「クハッ。僕の顔まで飛んできたよ。淫らだねぇ。触ったら、どうなるのかな?」
達したトトにより汚された顔を袖口で拭う。トトの口からごめんなさいと謝罪されるも、舌っ足らず。聞こえないと返すリヒルトは、トトの頬に触れた。
「ひっ、っ!」
「だらしない顔だねぇ」
涙とよだれにまみれた顔を、舐めとる。
悲鳴から絶叫。甲高いそれは拒否の声にせよ、トトの腕はリヒルトの体に回されていた。
本能が理性を丸呑みにしていく。
快楽が恥辱を塗り替えていく。
「やっ、りひ、とっ、あ!」
「クッ」
たまらず零れた笑いは、愛されていると思えたから。
「今、君の中には薬がーー赤い物(僕の血)が回っているんだ」
頭からつま先まで。
頭を撫で、胴体に指を這わし、足先を舐め、どの行為一つとってもいつも以上に反応を見せる体が証拠だと言うように。
「中からも、外からも、たっぷり堪能するんだよ。気絶するほどの快楽をあげるから、君も」
最後まで言わずとも、トトは自らリヒルトに抱き付いた。
体を擦り寄せ、彼がしてくれたことを、今度は自分からしてみせる。
「クッ」
積極的に行為に移る彼女の好きにさせる。
この身は、全て君に捧げると言わんばかりに。
「ハハッ」
そうして、君の全ては僕のものだと確信して。
「アハハハハハハッ!」
男の哄笑と女の絶叫。
相容れないものが彼らの空間を埋め尽くす。
ーー互いに、涙を流し合って。