形なき愛を血と称して。【狂愛エンド】

(二)

二階北側の部屋。
ただでさえ、日が当たらない部屋の窓には板が打ち付けられ、始終暗く、時間の感覚がズレていく。

トトにとって、今が何時なのか知る由もないし、ここに閉じ込められてから何日の時が経ったのかも知り得ることも出来ない。

「……ひくっ」

最初は『ごめんなさい』。次に『許して下さい』。最後に『出して』。

これらの言葉を繰り返し続けて、どれも叶わないと知ってから、トトの声帯は嗚咽を漏らす程度にしか使用されなくなった。

今、部屋にはトト一人。
ここに閉じ込めた当人がいない時こそ、逃げ出す機会なのだが、四肢の自由が奪われてしまってはどうすることも出来ない。

手首、足首。それぞれを有刺鉄線で縛られたのは、普通の縄ではトトが脱する恐れがあったからだ。

あくまでも彼女は人外。
人間以上の身体能力を持つ吸血鬼は、リヒルトの血を飲んでますます、“それらしく”あり始めていた。

力技で抜けられないためにも、有刺鉄線は大いに役立つ。力でどうにかすれば、手首ないし、足首が傷付く。実際、そうしようとしたトトの手首には火花のような形をした皮剥けが出来ていた。

また無理に抜け出そうにも、茨が手首の肉に食い込み、より縛り上げてくる。

「っ、ふぅ……」

床に横たわったまま、身を丸めたのは寒さがあったからだった。凍死するほどの寒さではないが、一糸纏わぬ姿でいては鳥肌も立つ。

フローリデから貰った服は、全部処分された。布一枚すらも貰えず、さらけ出された肉体には、リヒルトからつけられた赤い痕がいくつも残っていた。

舐められ、吸われ、噛まれ。白紙を汚していくかのように、弄られた体は、とてもではないが誰かに見せられた物じゃない。

外に出られないようリヒルトが二重に施した策は、彼女の心すらも蝕む。


手首の痛みよりも、内側からつつかれていくような苦しさで涙を流すほどに。

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