不順な恋の始め方
「あ、ほんまに?綺麗? 昨日めっちゃ頑張って掃除してん。実は」
「え、そうなんですか?」
「せやでー? 森下さん来るでちょっと気合い入れて掃除したわ」
何となく照れてしまうような坂口先輩の一言にうまく返事を返せない。
ただ、あははと笑い、恥ずかしくて赤くなっていそうな顔を隠すため俯いた。
「ちょっと待っててな」
それからしばらくの沈黙のあと坂口先輩は冷蔵庫へと向かっていき、その扉を開けた。
冷蔵庫へ顔を突っ込むようにして中を見たあと、扉を開けたままでこちらへ顔を向けた坂口先輩が何故か眉を八の字にする。
「ごめん森下さん、麦茶しかないわ」
「…あ、全然大丈夫です。お構いなく」
「ごめんなあ。なんかりんごジュースとか買ってきたら良かったなあ」
坂口先輩が麦茶の入っているポットを取り出し、2つのコップに注いでいく。
私はそんな後ろ姿をキッチンカウンター越しに、少し離れた場所から眺めていた。