王様とうさぎさん
「私、よくわからないんですよ。
 人を好きになるとかどうとかって。

 でも、例えば、明日、允さんと会えなくなったりしたら、淋しいと思うし」

「それは恋よ」

 また後ろからなにか割り込んできた。

 後部座席を振り返らずに言う。

「……成仏したんじゃなかったんですか」
と呟いたので、允にもわかったようだった。

 後ろに現れた清香が口を出してきたことが。

「允さんには迷惑をかけたわ。

 この人の良さそうなぼんやり顔に、平和そうだなと腹立ててたのも確かだけど」

 さすが。
 忍の言うことは正しかったか、と思った。

「でも、いろいろやってくれたから、恩返しにもう一度、言っとくわ。

 あんたはこの人が好きなのよ。

 間違いないわ」

 迷っては駄目よ、と言う。

 あんた、潮か、と思った。

「実は私、殺される随分前に、一度訊かれたのよ。

 結婚するかって」

「えっ」
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