ラグタイム
藤本さんが驚いたと言う顔をしてあたしを見つめている。

プロポーズをしてきた彼に、ひどいことを言ってしまったのはわかってる。

だけど、あたしの頭の中にいる人は武人なんだ。

無愛想で厳しい人、だけど優しくて温かい武人のことしか考えられなかった。

あたしは武人のことが、ずっと大好きだったんだ。

1人の男として、武人のことをずっと見ていたんだ。

「――藤本さんのプロポーズには、答えれません…」

断ることで藤本さんを傷つけていることは、わかっている。

藤本さんには兄貴のことや『ラグタイム』の仕事でお世話になったからだ。

「どうしても…」

呟くように藤本さんが言ったと思ったら、
「あいつじゃないとダメか?」

そう聞いてきた藤本さんに、
「はい…」

あたしは呟くように返事をした。
< 330 / 340 >

この作品をシェア

pagetop