今夜、上司と恋します
「広瀬とは何もないですよ」
「……そうか」
納得してる感じじゃなかったけど、私にそう言われては納得せざるを得ない。
空気が重くなったのを感じたから、私はわざと明るい声を出した。
「今日はタバコ吸わないんですか?」
「え?ああ。……持って来ていない」
「そうなんですか?」
「行く途中に買おうと思ったが、それどころじゃなかったしな」
「……ですね。取り乱してごめんなさい」
「いや、でも珍しいな。あんなに感情剥き出しの坂本は初めて見た」
“坂本”
それだけで、私と佐久間さんの間にはとてつもなく高い壁がある様な気がしてならなかった。
苦しさを誤魔化す様に、私は「そうですか?」って笑いながら言った。
うまく笑えてるかなんてわからないけど。
「坂本は自分が悪くないのに、自分を悪者にするからな」
「……なんですか?それ」
「覚えてるかはわからないが、もう退職してしまった寿を覚えているか?」
「菜々ちゃんですか。はい、覚えてます」
菜々ちゃんは私よりも一年後に入社して来た。
典型的なブリッ子で、男に媚び売っては仕事をよくサボっていた。
それで女の子にやっかまれていたわけだけど。
私は触らぬ神に祟りなしって事で、近付かない様にしていた。