今夜、上司と恋します



「はあ、もう。心配かけるなよ、本当に」

「……、ごめん」

「あー、何があったんだよ。佐久間さん絡みなのはわかってるけど」

「……」



いつの間にか、広瀬の手は肩から私の手に移動していて、ぎゅうっと握り締める。



「歩いてゆっくり帰ろう。少しは冷静になるだろうし。
それともタクシーとか拾う?」

「…平気、歩く」

「うん、わかった」



ゆっくりな私の歩幅に合わせてくれる広瀬。
こんなに優しいのに。


広瀬はいっつも私をからかってたけど、いっつも優しかった。
何だかんだで、絶対に私を見捨てなかった。


それを知ってたのに。
全然、気付こうとしてなかった。私。



「あー、もう暗くなって来たな。秋になって、冬になって。すぐだな。一年」

「……そうだね」

「相変わらず、俺は坂本を好きな一年だったよ」

「何言ってるの」

「ん?俺は坂本から一日が始まるんだよ、いつも」

「……私から?」

「おはようって言ったら、おはよう、広瀬って絶対言うじゃん。
坂本は毎回名前呼んでくれるんだよ」

「そうだっけ?」

「そうなの。それで俺も一日気合い入れよーって思うんだよな」

「単純」

「ピュアだろ?」

「うん。ふふ」


クスクスと笑ったら、急に握る手に力が込められてハッとする。
広瀬に視線を移すと、真っ直ぐに私を見ていた。


それから、悲しそうに微笑むと口を開く。
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