ウ・テ・ル・ス
「良いご質問ですね。いわゆる正規市販モノでは高い興奮度が得られないので、イリーガルでも高い興奮が期待できるモノを採用しております。」
「あら、そんなものどこから入手されるのかしら?」
 守本ドクターは、夫人の耳に口元を近づけて囁く。
「ここだけの話ですが、地域暴力団が市民にもたらす唯一の社会貢献ソフトです。」
 夫人は呆れて首を振った。守本ドクターはかまわず夫人を次の部屋に案内する。そこは薄暗い部屋で、四方を囲む壁面全体がスクリーンになっていて、クジラが海中を泳ぐ映像が映し出されている。室内はクジラが鳴く環境BGMが響いていた。
「ここはリラクゼーションルームです。奥様、どうぞここにお座りになってください。」
 守本ドクターは、カプセルのような椅子を指さして、夫人を促した。座って見ると身体全体がカプセルに包まれ、身体が浮いているようにゆったりと動く。
「リラックスできますでしょう。このように当クリニックでは生殖補助医療最先端の技術と設備で、不妊で悩む皆様に幸せな赤ちゃんづくりをご提供いたしております。」
 守本ドクターは、ひと通りの説明を終えて、夫人を応接室に導いていく。応接室では秋良と秀麗が待ち構えていた。
「ご紹介いたします。当グループのCEOの小池とゼネラルマネージャーの戴秀麗です。」
 それぞれが夫人と挨拶の握手をすると全員が席に着いた。夫人はこの座のイニシアチブは自分にあると主張するように、誰よりも先に口火を切った。
「主人の凍結精子は持ち込ませていただきますので、私の卵子を抽出してはやく赤ちゃんを作ってください。とにかく私にとって重要なことは、スピードです。事情は説明する必要はないかと思いますが…。」
「進め方といたしましては、奥様の卵子を抽出して、解凍した凍結精子と体外受精をさせます。その時の遺伝子データで、適正代理母をリストアップし、奥様の最終確認の後、代理母の排卵日に合わせて受精卵を子宮に着床させます。少なくともこの段階迄に1カ月は要しますので、その後を考えますと、すべて順調にいって1年以内にクアラルンプールで新生児を受け取ることができるでしょう。」
 守本ドクターが簡単に流れを説明した。
「はっきり申し上げます。今日からぴったり1年後に、私の自宅のベビーベッドに赤ちゃんが寝ていなければ、契約違反とみなし、損害賠償を請求いたします。」
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