ウ・テ・ル・ス
 真奈美は飛び上がって顔を離した。恥ずかしさのあまり、真奈美の顔がゴーストライダーのように炎に包まれる。ペットボトルを彼の口に添えると、濡れタオルを替えると理由を付けて、キッチンへ逃げ出した。

 どれくらいたったのだろうか。再び秋良が目を覚ました。今は頭がすっきりして身体もだいぶ軽くなっている。熱が引いたようだ。横を見ると、真奈美がまくら元で秋良の顔を、心配そうにのぞき込んでいた。真奈美は、体温計で熱が下がったこと確認すると、秋良にニッコリと笑いかけた。
「だいぶ良くなったみたいね。さあ、次は体力をつけなくちゃ。」
 そう言って部屋を出た真奈美は、キッチンからスープをお盆に載せて戻って来た。
「はい、あーん。」
 真奈美は秋良の口にスプーンを差し出す。秋良は、赤ちゃんがイヤイヤをするように、口を閉じて顔を背ける。
「手作りのパンプキンスープよ。美味しいから、ね。食べてみて。」
 秋良はそれでも、口を開こうとしない。
「家に帰ってきてから何も食べてないんだから、栄養つけなくちゃ…。私の料理は餓死しても食べたくないってことは良くわかっているけど、今回だけでいいから、目をつぶって食べなさい。」
 秋良は断固として拒否の姿勢だ。
「この悪党、私は怒ったわよ。」
 真奈美は、秋良のベッドに飛び乗ると、嫌がる秋良の顔をわきに抱えて押さえつける。まだ完全ではないとはいえ、秋良の男の力で真奈美の抑え込みなど跳ね返すことは簡単だった。しかし、真奈美の脇で挟まれた自分の頬が、真奈美の柔らかい乳房にあたると、なぜか抵抗する気力も力も消え失せていた。
 真奈美が、パンプキンスープを無理やり秋良の口に流し込む。秋良が少しむせた。
「わかった…俺の負けだ。素直に食べるから。」
「最初からそう言えばいいのよ。」
 真奈美が抑え込みを解いて椅子に戻ろうとした。
「ちょっと待て…。今の態勢が一番…飲みやすい。」
「へんね、何が狙いなの?」
「別に…。」
「いやらしいこと考えてない?」
「馬鹿言うな、熱で苦しむ病人からキスを奪うような奴に言われたくない。」
「ぐっ、返す言葉が見つからない…。」
 赤くなる真奈美を見て、秋良が笑った。真奈美に初めて笑顔を見せたのだ。真奈美は脇の間で秋良の頭を抱えると、スプーンを彼の口に運んだ。
「おい…ちょっと、熱いぞ。」
「そう、ふー、ふー。はい、どうぞ。」
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