凪の海
 佑樹の父親がまた、泡だらけの歯ブラシを咥えて待ち受けていた。
「冷蔵庫に、昨日の飲みかけの缶コーヒーが冷えてるよ。」
 汀怜奈はうなだれたまま、挨拶も返さず玄関にあゆみを進める。
「替えの下着を用意したから…。」
 汀怜奈は、黙って靴を履くと、ぺこりとお辞儀をして外へ出た。相変わらずうなだれたままだ。
「今朝もか…先輩は、朝おきて顔を洗う習慣がないのかな。」
 父親のぼやきを背で聞きながら、今度は電車で家路に着く汀怜奈。連続して無断外泊をしてしまった。さあ、大変だ。お母さまになんて言おう…。どう考えても、母に告げる言い訳が思いつかなかった。
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