ドナリィンの恋
「みなさん。ありがとうございます。落ち着いたらあらためてお礼にお伺いします。それから、ジョンさん。麻貴をよろしくお願いします。」
 ふたりは、部屋に残るジョンと弁護士にペコリとお辞儀をした。自分の国の習慣にはないお辞儀を、佑麻に従ってするドナのしおらしい姿は、さらに麻貴の心を逆なでした。
「麻貴、また明日にでも連絡くれよ。」と言って、佑麻はドナとともに警察署を出ていった。外では抗議で集まった人々が、佑麻の姿を見て歓声をあげた。

 家で落ち着きを取り戻したドナは、その晩の料理に腕を振るう。解放された佑麻の労をねぎらうためだ。ドナが佑麻の皿に甘酸っぱいスパゲティを盛りながら言った。
「ドミニクが警官の友達から聞いた話だと、どうやら近くの病院が患者を奪っていると誤解して、警察に通報したらしいの。こんなことになるなら、もう講習会は出来ないわね。」
「このまま終わりにして良いんだろうか?」皿を受け取り佑麻が言う。
「しょうがないじゃない。人のためにやっているのに、牢屋に入れられるんじゃ、やる意味がないわ。」
「その牢屋の中で考えたんだけど…。ここは、街の人とドクターの間に距離があり過ぎるよね。」
「どういう意味?」
「みんな病気になるまでドクターと話すことができない。本当は、病気になる前に話すべきなのに…。」
「ナースがその役目をすれば良いじゃない。」
「いや、ナースはあくまでもドクターのアシスタントだよ。仮にその役目をしようとしても、今でも忙しくて大変なのに、さらに仕事が増えるなんて無理だろう。」
「日本はどうなの?」
「社会保障が確立しているから、みんな気軽に病院へ行ってドクターと話をするよ。必要のない人まで病院に行くものだから、いつも病院は人でいっぱい。ドクターに会うまで何時間も待たなければならない時もある。」
「それはそれで大変でしょう。」
「とにかく、この地域だけでもいいから、ナースに代わって街の人と病院との間をつなぐ役目の人達がいると助かるよね。」
「医療はかなり専門的な知識が必要だから、そんな人を育てるのは簡単じゃないわ。」
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