ドナリィンの恋
 しかし、今日の彼の態度はなんだ。危険を顧みず、彼の安否を心配してやって来た麻貴に対して、あまりにも冷たく失礼な仕打ちではないか。結局佑麻にとって麻貴は、身内でしかないのだ。異性を想う佑麻の気持ちはドナにしか向いていないということを、今日つくづく思い知らされた。
「横に座っても良いですか?」
 気づかぬうちに、ジョンが麻貴のそばに立っていた。
「ごめんなさい。今は、ひとりにしておいてくれないかしら。」
 ジョンは麻貴の断りにも構わず麻貴の横に座る。
「私の声が聞こえなかった?」
 少し語気を強める麻貴。それでも動こうとしないジョンに業を煮やし、自分が立ち上がろうとする。その腕をジョンが取った。
「失礼を承知でお願いします。2分間だけ、私の横に座っていて下さい。」
 麻貴は、仕方なく座り直したが、顔はジョンとは反対の方向にソッポを向いた。ジョンは言葉もなくただ自分の腕時計を見ていたが、やがてその時がきて指を鳴らす。
「時間です。」
 その瞬間に、庭灯りが一斉に消えた。そしてドンという太鼓のような音が遠くでしたかと思うと、夜空の天空に大きな火の華が開いた。やがて火の華はその数を増やし、麻貴が以前隅田川で見た花火大会さながらの呈で夜空を染めた。
「うわぁーすごい!今夜が花火大会だったんだ。偶然にしては出来すぎよね。」
 麻貴が、花火が放つ火の粉のきらめきを瞳に映して言った。
「いえ、偶然ではありません。」
「どういうこと?」
「この花火は、今夜だけ、ミス・マキのためだけに、私が打ち上げさせました。」
 麻貴は、呆れてジョンの顔を見た。
「あなたがいくら金持ちだからと言っても、お金の無駄遣いにもほどがあるわよ。」
「祖母が落ち込んでいる時に、祖父がやったそうです…。祖母は今のミス・マキのようにお小言を言ったあと、でも元気が出たととても喜んでくれたそうですよ。」麻貴の胸が小さくキュンと鳴った。
「まだまだミス・マキのことをわかっているとは言いませんが、泣きたい時には、いっそ泣いたほうが、早く元気が戻るかもしれませんよ。」
「私は生まれてこのかた、男に涙を見せたことはないのよ。」
「私だって今まで、同席を断られた女性の横に、図々しく座るなんて非礼をしたことがありません。」
「…私の涙を見たら、ただじゃ済まないわよ。」
「…よく意味はわかりませんが、覚悟はできているつもりです。」
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