ドナリィンの恋
『胸を張って、腰を振って、誰の制止にも妨げられず…。』トニーのアドバイスを何度も頭の中で復唱して、闊歩する。
「ミス!失礼ですが…。」受付の呼びかけも無視して、直接エレベーターに乗り込む。ジョンのオフィスの階で降りると、通路の真ん中を進み始める。社員たちは、突然乱入してきたセクシーな東洋美女に特別なオーラを感じ、自然と道を開けた。秘書が立ち上がり彼女の行く手を遮る間もなく、麻貴は、ジョンのオフィスのドアを勢いよく開ける。
『あちゃーっ…。』麻貴は心の中で叫ぶ。部屋の中では、ジョンが大勢のシニアマネージャー達を集めてのミーティングの真っ最中だった。サングラスをしていなければ、心の動揺が読まれてしまっていたかもしれない。ジョンを含めて、部屋の中の男性陣は一斉に麻貴を見た。
『何ものにも動じず、まっすぐ彼のところへ…。』心に言い聞かせて麻貴がジョンのところへ進む。ジョンは、慌てて椅子から立ち上がろうとしたが、麻貴その肩を抑えまた座らせる。そして、驚く彼を横目にスラリと伸びた足を組み、彼の膝の上に座ったのだ。男たち全員の目が、フランス製のル・ブルジェ(Le Bourget)のストッキングに包まれた麻貴の美しい足に釘付けになった。サングラス越しにジョンを覗き込みながら、麻貴が言った。
「あなたはビジネスマンでしょう。だから取引に来たわ。わたしのお願いを聞いてきてくれたら、あなたのお願いも一つ聞いてあげる。」
 シニアマネージャーが、一斉にジョンを見た。ジョンは、初めて香港国際空港で麻貴を見た時から、すでに彼女の美しさに魅かれていたのに、こうしてフランスの香りに包まれて、エキゾチックな姿で迫られては、もう彼女の魅力の前に白旗を上げるしかない。
「わかりました。取引しましょう。ミス・マキ、私の条件は帰国を伸ばしていただくことと、これからデートをしていただきたいということです。」
「それって、ふたつのお願いよね。」
「それに…。」ジョンは麻貴のサングラスをはずしながら言った。「これからは、マキと呼ばせてもらいますよ。」
「さすが優秀なビジネスマンね。交渉がお上手なこと。」
 シニアマネージャー達は、即刻会議から解放された。
< 94 / 106 >

この作品をシェア

pagetop