宝物を見つけた夏休み ~Dear アタシ~
称賛の一声をあげた。
『ジィが死んだ時はこのトマトはもう食べられなくなるかと思ったけどハナ子バァだけでもトマト作り続けてくれて本当アタシは感謝だよ♪』
『チカはジィが死んだ時そんな事考えてたんかい?ジィもうかばれへんなぁ』
ハナ子は呆れながらも孫の嬉しそうな顔が見れて内心ではホッとしているのだった。
チカが三日前,テスト休みが始まったその日の夕方に現われた時にはハナ子の知っているチカの様子ではなかったからだ。
年に二度お正月とお盆の数日間東京から父親と母親と妹と家族でやって来るチカは天真爛漫な少女だった。
それが今回はひょっこりと新幹線に乗って,JRを乗り継ぎ,最後にバスに乗って奈良県のハナ子の自宅の前に現われたのだ。玄関先でボストンバックを持って泣きそうな笑顔で立ちすくむチカを見た時のハナ子の驚きはすごいものであった。
『今年の夏はチカがいるからバァは忙しいわ。チカも家事ぐらい手伝うんやで。』
『まっかしてよ!私中学3年間調理部だったし御飯もバンバン作るよ!』
本来なら勉強熱心なチカの両親が夏休み中塾にも通わさせず,チカを奈良に居させるなどは考えられない事だ。しかしハナ子はチカにも,チカの両親にも東京で何かあったのかとは聞かないで,ただ,チカと楽しい夏休みを過ごすつもりでいた。
チカが話したくない事なら聞く必要は無いと思っていたからだ。
『あっそうそう。チカ。明日から毎日カズマが朝のうちだけ畑の手伝いに来るから。』
『カズマ…?確かパパの従姉妹の子どもだよね~何回か会ったけど話した事無いもんなぁ~印象無いなぁ』
チカは何度か見掛けたであろうカズマを思いだそうとするのだが,思いあたらなかった。
『歳も近いし,すぐ近くに住んでるから暇だったらカズマと遊んだらいい。』
『ふ~ん。そうだね~。』
チカは対して気にもとめずに素麺を啜った。


『アンタ,パンツ見えてるで。』
(えっ…!?何っ!?)
『うわぁ~~!!!!!』
ハナ子の家の一階の和室で寝ていたチカの枕元に立つ少年の姿と科白(セリフ)にチカは飛び起きた。
『なぁ,アンタそんなカッコで寝てたら腹こわすで。クーラー付けたまんまでパンツ丸見えで寝てたらあかんやろ―。』
ロングキャミソール一枚で寝ていたチカは慌てて,布団の上で正座して,少年を見上げた。
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