『私』だけを見て欲しい
幸せな時間をもらった。
12年ぶりに名前で呼んでもらった。

抱きしめられて嬉しかった。
女性として…扱ってもらえて良かった。

何もかもが久しぶりで…
おかげで少し戸惑ったけど。

(でも…全部、これからの自信につながっていくと思うから…)

生きてく上での大きな自信に、きっとなってくハズだから…。

「それじゃあ…今日はこれで失礼します。3日ほど有休を頂きましたから、休みが明けたら、また参ります」

深く頭を下げる。
マネージャーは小さな声で「そうか…」と言ったきりだった。

走るような早さで横をすり抜けた。
泣きだすのはまだ早い。
これが最後の別れじゃない。

(…ラストシーンはまだ先だから……)

涙をこらえて外に出る。
降り出しそうな空を見上げて、まるで私の心と同じだ…と思った。

雲が立ち込めたまま、どんな空模様に変わるのか分からない。
どんなふうに変わっても、きっと晴れたりしない。

それが一番ツラくて、気が重くなった……。
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