さぁ、オレと恋をしてみようか
遊園地とか、水族館とか、動物園とか。両親と行った記憶なんかない。


「だから大学卒業して、すぐに就職して、そしたらいつの間にか距離取るようになって。きっと根っこのほうで、ずっと小っちゃい頃の〝遊んでくれなかった〟ってのが、あったんだと思う。今、あの店をオレが継いで、時間がないってのは、わかったよ。でも、あん時はそれが理解できなかった」


きっと自営業の人たちは、みんなそうなのかもしれない。


小さな店だから、少しでも売り上げにしないと、家族がいるわけだし、オヤジは必死だったんだと思う。


「そんな時だった。オレが35歳の時、急にオヤジから電話がきたんだ。母さんがケガしたって」
「えっ、ケガ…ですか…?」
「あー、たいしたケガじゃないよ。階段から落っこちたんだと。それで店を休みにしたくないから、1日だけ手伝いに来れないか?って。電話もらった時は〝なんでオレが〟って、思ったよ」


〝どうしてイヤなあの店を手伝わなきゃいけないんだ〟って、思った。


でも、たまたま休みで仕方なく行くことにした。


なにもわからないオレに、オヤジは一つ一つ、丁寧に教えてくれて、それをオレはメモに取って、オヤジは母さんを連れて病院へと行った。


「でも今は、あの日電話をもらって、オレは感謝してるんだ」
「感謝、ですか…?」
「あぁ。今でも忘れないよ。夕方だった、あの娘(こ)に会ったのは」


オレが牛乳を出している時だった。


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