いつかウェディングベル

あの当時の話をすると必ず吉富が話題に出てしまう。それだけ、加奈子が頼っていたと考えられるが、頼まれもしないのに積極的に行動に出ていたのは加奈子を落とすためだ。


あきらかに加奈子を狙った所業だ。


生きることに必死だった加奈子の弱味に漬け込んだ卑怯な男だ。


その吉富の行動に後ろめたく感じるようだが、加奈子にはその必要はないと、本人にも理解させなければならない。


吉富の行為はあきらかに加奈子を誘惑するための策略で下心のあるものだ。


そんな策略に加奈子の心を痛める必要はない。



「今度はここへ芳樹も連れてきたいよ。」


「うん、私も。」



殆んど眠っていなかった俺達は朝方のお喋りの後に少し眠りについた。


二人の眠りの呼吸が微かに聞こえるだけで室内はとても静かだった。



お忍びの宿と言う名の通りお客からの連絡がない間は誰も部屋には近付かない。


大抵男女のカップルの客の時はベッドから離れられないのが普通で、蜜な時間を過ごしているお客の邪魔をしないのがこの宿の習わしだ。



日が高く上った頃まで俺達二人は眠っていた。


目覚めた時は心地よいほどに良く熟睡できた。



すると、携帯電話のLDE が点滅していることに気付いた。



こんな野暮な事をするのは誰か?と電話を手に取り確認した。


それは、電話連絡を暫く受けないと説明していた秘書からだった。そして、緊急時はメールを送るように指示した通りにメールを送信していたのだ。


加奈子の抱き心地のよさについ眠っていた間に送られてきたメールだった。


緊急時のみの連絡だと分かると嫌な気分になった。


もしかしたら、俺達の新婚旅行もたった一日で終わるのか?


不安になってメールを確認すると俺の予想は的中していた。



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