いつかウェディングベル

「警戒する必要はありませんよ。私は最初から勘付いていましたから。と言うより、吉富さんが専務と田中さんの関係に気付かない方が変だと思いませんか?」



実にあっけらかんとした江崎を相手に否定するのもバカバカしく感じてしまう。


それに、江崎はさっきから俺と加奈子が関係しているとハッキリ俺に話している所に、どうもなんと答えていいものか悩んでしまう。



「変と言うのは?」


「吉富さんは田中さんを好きだったら彼女が何を考え何をしているのか気になりますよね? 田中さんはいつも専務を見てますし専務の一言にかなり反応しています。彼女の視線を追えばその行きつく先はいつも専務なんですよ。それに吉富さんが気付かないはずはないでしょう?」



江崎の発言は、加奈子の視線の先にはいつも俺がいると、加奈子はいつも俺を見ているということか?


それは有難いがこんな風にあからさまに分かるような情熱は控えた方が良さそうだと加奈子にアドバイスしよう。


しかし、江崎には誤魔化しは効かなさそうだ。ここで白を切ったところで直にバレてしまうのだから。せめて加奈子に対し冷静に理解を示す江崎には事情を説明した方が良さそうな気がしてきた。


どうしたものかと、しばらく悩んでいると江崎は煮え切らない俺の態度に一言言葉を追加した。



「田中さんの息子の芳樹君の父親って専務でしょう?」



あまりにも予想外の質問に俺は完全に冷静を失ってしまった。


どう反応していいのかも、いきなりの言葉に戸惑ってしまった。


言葉を失った俺の顔を見て江崎はにっこりと笑っていた。その笑いが俺には恐怖の笑いのように感じてしまう。


江崎が何を企んでいるのか思わず疑いの目を向けたくなる。これまで大して人には興味を示さず吉富の後ろで影の様な存在で仕事をして来たヤツが、最近では吉富を押し退け自ら率先して仕事に励んでいる。


この態度の変わりようをどう捉えていいのか。


もしかしたら俺にとって爆弾を抱えているようなものなのか?

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