いつかウェディングベル
「警戒しないで下さい。別に俺の口から吉富さんや他の誰かに話そうとは思っていませんから。」
「何故、君はそんな考えに結び付いたのか理由を知りたいんだが。」
「芳樹君のことなら専務とそっくりじゃないですか?誰の目にも専務と二人並んだら親子に見えますよ。」
確かに江崎の言うことはもっともだ。息子の芳樹は俺によく似ていて我が子ながら実に賢そうな可愛い子だ。
江崎が俺の子だと勘付くのももっともだろう。
それに芳樹が俺の息子だと分かれば、俺と加奈子は既に何年も前からの顔見知りとなる。
シングルマザーだった加奈子と俺が再会すればヨリを戻すことも考えられる。
きっと、江崎はそう思ったに違いない。
「彼女の息子がもし私と他人だと言ったらどうする?」
「それは無理でしょう? お二人はかなり訳ありの様子ですし先日も会議室での一件がありましたからね。」
「なるほどね。君はよく彼女を見ているんだね。」
「はい、田中さんのこととても気に入ってますから。」
俺と加奈子の関係を知りながらそんなセリフを平気で言う江崎の神経を疑うが。結局、加奈子の相手が俺だから江崎は素直に身を引くということか?
まあ、それならそれで面倒がなくていい。吉富もこれくらい理解があればいいのに。どうして、こうも面倒な男ばかりに加奈子は気に入られるんだ?
「職場環境についての問題を改善して欲しいのが君の要望だったな。」
「はあ」
「分かった。しかし、それは俺だけの考えでは出来ないから彼女と相談して吉富君に話をしよう。」
「彼女とは?」
「君が気に入っている彼女だよ。」
江崎は少しはにかんだようにして軽く会釈をすると部屋から出て行った。
江崎の不満ももっともだと思う。何かあるたびに吉富の存在を気にかけ乍ら加奈子と話をする。それも、俺達は結婚しているからどうしても会話が夫婦の会話へと変わりつつある。
どのみちこのままでは知られてしまう。
本気で俺達の関係を公にする日がやって来たようだ。