いつかウェディングベル

相変わらず振られた男の泣きごとは醜いものだ。一歩間違えれば俺も吉富と同じ立場に立っていただろうが、何とか俺の妻にすることが出来て今はホッとしている。


だけど、妻にしたからと安心はできない。加奈子へ与えた傷は簡単に癒えるものではない。


時間をかけ加奈子の傷を癒し俺の信用を得なければならない。


それには時間が必要でありどれくらいの期間必要かは誰にも分からない。


だから、その為にも今回のウェディング企画を俺も手伝いたいのに加奈子にシャットアウトされた状態では俺には何も出来ない。



「蟹江君、ちょっといいかな?」


これ以上吉富と話しても欲しい答えが返ってくるとは思えないし、周囲に加奈子の奪い合いを未だにしていると思われるのも癪だ。



「専務、加奈子さんでしたら坂田さんと会場づくりに出られていますよ。」


「会場は見つかったのか?」


「そのようですよ」



加奈子は俺には何も話そうとはしない。会社では勿論のこと自宅に帰ってからも書斎に籠って仕事の続きをしているし俺は書斎へは入れない。しかも、無断で入ろうものなら加奈子に怒鳴られるし資料はどこかへ隠されている。


何故、そこまで秘密にしなければならないのか俺には加奈子の考えが分からない。


蟹江も吉富も加奈子が今何をしているのかを知っているのに、夫である俺が知らないのが腑に落ちない。



「専務、加奈子さんが秘密にしたい気持ちも分からなくはないんですよ。私も同じ女ですからね。」


「秘密にする意味があるのか俺にはさっぱり分からないが。」


「もう少しだけ見守ってあげて下さい。きっと、素敵な結婚式になりますよ。」



蟹江はかなり詳しい情報を持っているようだ。だけど、俺に話すつもりはないようだ。


きっと、加奈子に口止めされているのだろう。


だったら、俺は加奈子が手掛ける初めての結婚式を楽しみに待っているしかないようだ。

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