いつかウェディングベル
週末を迎えたこの夜は、珍しく加奈子が早めに寝室へとやってきた。それも、芳樹を抱きかかえて。
このところ仕事で忙しい加奈子や俺に代わり、祖父母のところで寝ていた芳樹が俺達のところへとやってきた。
久しぶりに両親と眠る芳樹は嬉しそうな顔をしていた。
こんな時「おじいちゃん、おばあちゃんと一緒に寝たい」なんて言われたら俺は死ぬほど悲しいと思うが、一応、まだ芳樹には忘れられてはいないようだ。
「芳樹、パパのところへおいで。」
加奈子から芳樹を取り上げ俺が抱き上げると、剥れた顔をしたのは芳樹ではなく加奈子だった。
「久しぶりに抱っこしたのよ。芳樹を私から取らないで。」
「俺だって久しぶりに芳樹とゆっくり遊べるんだ。加奈子こそ芳樹を取らないでくれよ。」
二人して芳樹の取り合いだ。普通なら夫婦の甘い時間を楽しみたい週末の夜なのに、俺達は仕事中心で構ってやれなかった息子の取り合いをしていた。
そんな取り合いに俺達は顔を見合わせて笑ってしまった。
「子どもっていいわよね」
「いいよな。だから、早くもう一人欲しいな。」
「そうね。でも、今は仕事で忙しいからまだ無理よ。」
「それは残念だな。でも、妊娠したら生むだろう?」
「妊娠したらね」
きっと、そう遠くない日に二人目の子どもはやって来ると俺は信じている。信じるも何も俺には自信がある。
加奈子は気づいているか知らないが俺は避妊する気はない。だから、きっと、もうすぐ芳樹の弟か妹が出来るはずだ。
俺はその報告が聞けるのを楽しみに待っている。
「あ、そうだ。忘れていたわ。明日なんだけど透の予定はどう?」
「予定? いや、今のところは何もないけど? 何かあるのかい?」
「私の両親のマンションを検討したんだけど透も一緒に見て欲しいの。」
加奈子の両親が住むためのマンションを購入する下見らしい。加奈子一人では心細いし俺にも一緒に考えて欲しいとのことだった。