いつかウェディングベル
「今度は私達のマンションへ行きましょう」
加奈子は両親のマンションを見た後に俺が住んでいたあのマンションへと行くと言い出した。
加奈子と結婚して以来、実家の両親の家に同居し俺のマンションは放置したままだった。
その部屋の片づけでもするというのか、加奈子に誘われるように俺達はマンションへと行った。
久しぶりに入る俺のマンションだが、以前と変わりなく一人暮らしそのままの部屋の様子が実に寂しいものを感じる。
以前はこんな部屋で満足していたのだろうかと信じられない想いがする。
「殺風景だし何もないのね」
加奈子の言葉に俺も頷いていた。一人暮らしの時はここが天国かと思える程に居心地の良い部屋だった。
しかし、ここには加奈子のものが何一つない。芳樹のおもちゃの一つもない。
使ったタオルを放ったソファもなければ脱ぎ捨てたパジャマもない。
綺麗に片付いたキッチンには使った鍋もなくコップ一つ出ていない。
光り輝いているダイニングテーブルには温かみもない。
「ここには生活感がないんだな。寂しい空間だよな。」
「そうね。だけど、このまま放置は出来ないわよね? 透はどうしたい?」
それは俺達がここへ帰って来るのかこのまま親と同居をするのか、本気で考える時が来たということなのだろうか?
加奈子は今は仕事が忙しいし、これからはもっと忙しくなるだろう。事業を始めるのだから当然のことだ。
新会社になれば俺は加奈子の仕事を手伝うことは出来ない。
加奈子とすれ違いの日々を送るようになるのだろうか?
「俺は、加奈子を幸せにしたいんだ。」
「幸せよ」
「もっと幸せにしたい」
「なら、私達の家へ帰りましょう。お義父さんとお義母さんが待つ家が私達の家だわ。」
加奈子がそう思ってくれていたことに俺は胸がいっぱいになった。
こんな俺にできすぎた妻だと俺は感激で声にならなかった。