いつかウェディングベル
俺はあの場にいられなくなり、早々に居酒屋を引き上げた。
一旦社へ戻り自分の部屋へと行った。
秘書らは退社したと思っていた俺がまた会社へ出て来たことで不思議そうな顔をしていたが、時間になると俺には遠慮せずさっさと退社してしまった。
重役フロアには殆ど人はいなく社長室と専務室の明かりが点いているだけだった。
社長専属秘書は秘書室にまだ残っていたが、他には特に人は見当たらなく静かなフロアだった。
俺は、窓の外に見える街並みを見つめていた。
窓の外の景色も最初はビルの明かりで綺麗なものだったが、時間が過ぎていくうちに少しずつ明かりも少なくなりだんだん寂しい景色へと変わっていった。
まるで自分の心でも見ているかのようで急に寂しく感じてしまった。
そこへ部屋のドアを叩く音が聞こえ誰がやって来たのかと思えば、珍しくも親父が専務室へ入って来た。
「どうした、仕事はもう終わったのだろう?」
「・・・ちょっと、考え事していたんですよ。」
「何をだ?」
親父も窓際へとやって来て俺と同じように窓の外の景色を眺めた。
そして、俺のいつものような元気のない様子に気を遣ってくれたのだろう。
親父は俺の話を聞いてくれた。
「もし、俺が加奈子と再会しなければ吉富と交際していたのかなと。もし、俺がプロポーズしなかったら加奈子はどうしただろうかと思って。」
「吉富と何かあったのか?」
「いいえ。俺の独り言ですよ。」
もし、俺が婚約者だった女と結婚していれば、きっと吉富は加奈子と結婚していただろう。
加奈子もまた、長年支え続けて来た男に身を任せただろう。
もし、俺が・・・
「もしもなんてのは当てにならないものだ。今あるものこそが全てだ。加奈子さんが選んだのは例えどんなに酷い仕打ちをしていてもお前だ。お前が現実なんだ。」
分かってはいるが吉富に話す加奈子のセリフに、自業自得とは言えど落ち込んでしまう。